India Note|インドの現代を知るウェブメディア

India Note|インドの現代を知るウェブメディア

インド第3の都市ベンガルールを走るメトロから、日本の強みについて考えてみた

ベンガルールを通る”インドの山手線”

今日もいつもと同じように、メトロ(地下鉄のはずなのに高架橋を通っています。笑)に乗って学校に向かいました。未だ6駅しかないベンガルールのメトロですが、乗っていると気づくことがいくつかあります。例えば、インドにしては珍しく時間に正確だったり、そもそも電車の中のつくりが日本の電車にそっくりなのです。『なんでだろう?』と思った僕は、2011年に開通したばかりのベンガルールメトロについて調べてみました。
 
メトロ
(毎日使っているベンガルールのメトロ)
 
もともとここベンガルールはインド屈指の成長都市であり、1980年代からの20年代で人口が倍増し、それに伴い自動車の量も急増しました。そのため、交通渋滞が重大な問題となり、経済損失、大気汚染・騒音などの自動車公害による健康被害が深刻化していました。そこで、インド政府は、2006年に発表された国家都市交通政策を打ち出します。その中で、400万人以上の人口を有する都市において、安全性・エネルギー効率・環境保全の観点から、メトロを整備することを宣言したのです。ここベンガルールもその条件を満たしていたため、州政府をあげてメトロ着工に取りかかることとなりました。しかし、現在のインドの技術力・ノウハウだけでは到底メトロを完成することはできませんでした。

メトロを造った日本の技術たち

外資系企業への規制が非常に厳しいここインドですが、このような場合、外資企業による競りを行います。そして、JICAによるインドのメトロ建設に対する支援の歴史は非常に長く、インド初のメトロとなるコルカタメトロ南北線の建設に協力していた実績もあったため、日本企業に白羽の矢が立つのです。そこで、建設全体のコンサルとしてはオリエンタルコンサルタンツなどが、トンネル掘削には日立造船、車両は三菱商事がそれぞれ参画することとなりました。この3社はいずれもインドの他に、既にベトナムなどで鉄道案件において実績をあげていました。それらの他にも、建設段階の安全管理にも日本の団体が一役買っています。例えば、神戸大学が開発した「OSV(On Site Visualization)システム」が工事現場に導入されました。これはLEDを利用した光デバイスで工事現場の危険度(地盤変化)をリアルタイムで表示することにより、作業員は即座に危険を回避することができるものです。また、山口大学が開発した「携帯電話搭載カメラを用いた粉じん計測」が工事現場に導入されています。作業員が自ら粉じん濃度を確認することで、現場にて適切な対策を講じることができるため、安全に作業できます。まさに、日本の技術によって工事現場の安全性に考慮した建設が可能となったのです。
 
光センサー
(光デバイスのおかげで安全に作業ができる)
 
しかし、これだけではありません。他のところでも日本の技術・ノウハウがベンガルール・メトロの開通に一役買っているのです。それは、鉄道運営そのものです。そもそも、鉄道が整備されていないインドのような国では鉄道の運行会社そのものが存在しません。ですので、日本の鉄道会社が当たり前に行う業務を1から教え込む必要があるのです。そこで、JR東日本傘下で、海外鉄道案件を手がける日本コンサルタンツが、その構築を担うことになりました。

上記の日本の資金投資・技術投資によって、遂に2011年、ベンガルール初のメトロが開通しました。開通式には多くの現地人が集まり、「Namma Metro(現地語で「私たちのメトロ」)はバンガロールの誇りだ」とメトロの開通を祝ったそうです。現段階ではまだ6駅だけの運営ですが、ほぼ日本の電車と同じように予定時刻通りに電車が発着します。まさに日本の技術の凄さはここにあると思います。もちろんハード面の技術は世界屈指ですし、それに加えて、ソフト面でもそれを駆使するためのオペレーションの構築が非常に優れています。それによって、リソース的にも無駄がなく、効率的な運用を行うことができるのです。日本のこれらの技術・ノウハウによって、ここベンガルールでもインド人だけでまさに日本のような鉄道運用が可能となっています。
 
メトロ2
(開通式にて、日本に対するお礼の垂れ幕)
 

海外経験が変えてくれる日本に対する考え方

日本人はよく自分の国に対して悲観的な見方をします。例えば、シンガポールや香港など、日本と同じように国土が広くはないがITや金融などの高度な産業によって経済成長を遂げている国々と比較し、自分たちの国を嘆きます。(グローバル人材が少ないとかなんとか・・・。笑) 確かに、ここインドでは日本では絶対に感じることのできない、世界中で活躍するインド人の凄さとかインドの経済成長の勢いを肌で感じ取ることができます。しかし、同時に、今回ご紹介したように、日本は他国には簡単にまねできないモノ作りの技術を持っていること、そして、それが世界中の社会インフラの構築に役立っていることを思い知るのです。僕はこれこそが日本の強みだと思います。今後、インドや中国などの圧倒的な市場ポテンシャルを持つアジアの大国が世界の中心になることは間違いありません。僕は日本がその恩恵を享受できるかどうかは、上記のような日本独自の技術をインフラ構築が経済発展に追いついていない他国に伝達し、国として尊敬されうるポジションを確保できるか否かにかかっていると思います。これからの日本でそれを成し遂げることができるのは、僕たち若者だけです。

”海外に出る事で日本の良さが分かる。”よく言われる事です。慣れないことばかりのインドでの生活はもちろん苦しいことも多いですが、そのことを思い知ることができる機会がたくさんあります。そして、このことは、海外での生の体験を自分の常識と照らし合わせたり、それについて『なんでこうなっているんだろう?日本の場合はどうだっけ?』と自分の頭で考えてみることでのみ、本当の意味で実感できるのだと思います。そんなことを、いつもと同じようにベンガロールのメトロに乗りながら、つらつらと考えてみた1日でした。

コメントはこちら

*
* (公開されません)
*

Return Top